妊娠中に気づかずにCT検査を受けてしまう場合、あるいはわかっていてもどうしても検査が必要と判断される場合に、胎児の被ばくを推定することは非常に重要です。国際放射線防護委員会(ICRP)はPublication 84の中で「100mGy 未満の胎児線量を妊娠 中絶の理由としてはならない。(このレベルよりも高い胎児線量では,説明を受けたうえで,個人の事情に基づいて決定すべきである。)」と明言しています。
通常の多くのX線診断検査においては、(一部の放射線治療などは除き)この100mGyという胎児線量を超えることは極めてまれですし、通常に実施された多くのX線診断検査による出生前の被ばく線量では、出生前死亡・奇形・精神発達障害のリスクが自然発生率を上回ることはありません。
一方で、診療の現場において「100mGyを超えないのはわかったけど、どのくらい被ばくしたのか」という疑問に瞬時に対応できる用意があるでしょうか?デビデンスのある資料・ツールを用いて説得力のある数値を提示することは、リスクコミュニケーションにおいてとても重要なことです。
『fetaldose』はチューリッヒ大学病院の放射線科が中心となった開発された CTスキャンによる胎児の放射線量を推定するWebツール です。
推定に必要な情報は
・在胎月数(月)
・管電圧(kvp)
・CTDIvol(mGy)
・スキャン範囲(シェーマで開始と終了位置を指定)
・母体の周囲長(mm)※オプション:計算精度が向上する
となっており、特に母体周囲長を付加して計算された場合は、患者ごとに最適化されたモンテカルロシミュレーションとの相対誤差がわずか11%であったそうです。
では実際に、我が国の診断参考レベル(DRL2020)の値を入力してみます。
・胸部1相・・・CTDIvol 13mGy、スキャン長 390mm
在胎月数 0ー3月:0.51 mGy
( 〃 )3ー6月:2.13 mGy
( 〃 )6ー9月:2.65 mGy
⇒骨盤がスキャン範囲に含まれていない場合は、胎児が小さい方が距離が遠く、自己遮蔽もあり散乱線による被ばくが少ない。
・胸部~骨盤1相・・・CTDIvol 16mGy、スキャン長 750mm
在胎月数 0ー3月:18.02 mGy
( 〃 )3ー6月:14.31 mGy
( 〃 )6ー9月:12.67 mGy
⇒骨盤がスキャン範囲に含まれている場合は、胎児が小さい方が胎児線量も多くなり、その値はCTDIvolを超え得る。(CTDIファントムに対して被写体が小さい場合の挙動と同様。腹部周囲長が大きくなるとCTDI表示値に近づく。)ただしより正確な数値を参照するにはオプション機能の母体周囲長を計測し計算することが望まれます。
しっかりとしたエビデンスのもとに作成されたツールであり、現場で簡単に使用することができます。視覚的にもわかりやすいこのツールは放射線リスクコミュニケーションに非常に有用なツールであると考えます。
このツールが紹介された記事
開発論文
[1]Saltybaeva, Natalia; Platon, Alexandra; Poletti, Pierre-Alexandre; Hinzpeter, Ricarda; Merce, Marta Sans; Alkadhi, Hatem (2020). Radiation Dose to the Fetus From Computed Tomography of Pregnant Patients-Development and Validation of a Web-Based Tool. Investigative Radiology, 55(12):762-768.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32604386/
